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diary 大浦信行監督日記
2007年03月15日 15:37
監督ノート 百合花日記(ゆりいかにっき)
3月14日(水)晴。
午前中、ベランダに出てタバコを吸っていた。
烏(カラス)が三羽、空に舞っている。そのうちの二羽はお互いにちょっかいを出しながら、前になり後になり、じゃれ合って飛んでいる。何かいいことがあるのだろうか。
(大野)慶人さんは、いつ会っても端正な顔立ちをしている。
鼻筋が通っていて、横から見るとドイツの古いコインに彫られた皇帝の横顔のようだ。
黒のタートルネックに黒の上下の背広、スキンヘッドで颯爽(さっそう)としている。年齢を感じさせない。
慶人さんには、前作「日本心中」に出てもらった。
長野にある長谷寺の山門で、「ウサギのダンス」の曲に合わせて踊ってもらった。
7月下旬の早朝4時50分。日の出前の瞬間をねらっての撮影だった。日が登る直前のわずか10分間の勝負。青白い薄もやが立ち込める中で、「ウサギのダンス」のテークを2回撮ってOK、うまくいった。
ちなみに、この「ウサギのダンス」の日本心中での使われ方を、鶴見(俊輔)さんはとても気に入ってくれていた。
「針生さんがベンヤミンの話やいろいろ難しい話をしているところに、突然に『ラッタ ラッタ ラッタ 兎のダンス』が出てくるでしょう。あれで感激したんだねぇ。わーっと。あれはとっても解放感があって愉快だったんだ。大野慶人でしょう。しかもお寺の山門みたいなところで踊るんだ。ありゃすごいね。ああいうものが、ばぁっと自分の中に入ってくるわけ」と。
トークで慶人さんは、大野一雄さんのこと、舞踏の基本的構えなどについて話した。
「大野一雄は生涯、土台づくりをしていたんじゃないでしょうか。決して上に家を建てないで、下ばかり耕していた。だから遠心力を持っていたと思うんです。
土方巽さんは、大野と同じことをやりながら、求心力でもってこの世界を掴み取ろうとした」。
「舞踏は、歩く、走る、飛ぶ、ねじるという人間の基本的行為をどんどん削ぎ落として、極限まで持っていく作業です」と。
この削ぎ落としていく作業ということは、ぼくのつくっている映画でも云える。
つい、以前よりも今、今よりも次というようにスケールを大きくしていきがちなものだ。そのことが成長し発展していくことだと、つい錯覚を起こしてしまう。決してそんなことはないのだと、ぼくはいつも自戒する。
だから次につくる映画はもう一度、20代で映画をつくっていた自分の原点に立ち帰ろうと思っている。
スケールも縮小し、すべての要素を削ぎ落とし、シンプルこのうえないものをつくりたいんだ。改めてもう一度、白黒映画をつくるんだ。映画の原型みたいなものをつくりたいんだ。
慶人さんの話を聞きながら、そんなことを思っていた。
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