日本心中

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diary 大浦信行監督日記

2007年03月11日 16:29

監督ノート 百合花日記(ゆりいかにっき)

3月10日(土)

今日のトークは午後3時から。外は雲一つない大快晴。
気持が良いので、久しぶりに駅まで自転車で行くことにする。
多摩丘陵のけやき並木の坂を、スイスイと自転車を漕(こ)いでいく。
「あっ、木蓮(もくれん)が咲いている」と気づく。真青な空に高くそびえて咲く木蓮。奇麗(きれい)だなぁと思う。
すると突然、「ホーホケキョ」と鶯(うぐいす)の鳴き声が飛び込んできた。「ホーホケキョ」と最後まで鳴いた。というのは、この時期、鶯はまだ「ホーホケ、ホーホケ」としか鳴けないんだ。
ぼくの経験によると、完全に鳴き切るようになるには、5月下旬頃まで待たなければならない。これも暖冬のせいかなと思いながら駅までいった。
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2時半過ぎ、ポレポレに着いたら、今日のゲスト足立(正生)さんはもう来ていて、スタッフの田上さんと談笑していた。
足立さんは伝説の人。60年代、若松(孝二)さんとのコンビで、問題作を立て続けに連発していた。
足立さんの脚本で若松さんが監督。政治と暴力とエロスの饗宴映画。
足立さん自身も、『鎖陰(さいん)』、『女学生ゲリラ』、『略称・連続射殺魔』などの映画をつくっていた。
難解な映画と、難解な文章の足立さん。
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でも本人はいたってニコニコしている気さくな人。でもある瞬間、キラリと60年代闘士の面影が光り、鋭い。
その足立さんが35年ぶりに撮った映画「幽閉者・テロリスト」が、ユーロスペースで昨日まで上映されていた。
深く考えさせられる映画で、一言では云い難い。ズシーンと腸(はらわた)に一撃を食らわされる感じ。1972年、イスラエルのテルアビブ・ロッド空港乱射事件で掴まった岡本公三をモデルにはしているけれど、決してそれを再現する映画ではなく、どこかにあるもう一つの場所で密かに進行する、一人の男の心の闇との葛藤と、牢獄(国家)の闇との入れ子構造によって出来上がっている映画。それを表現するために、カメラの視点は遠近感をなくすように設計し、意識的にフラットな画面をつくり出していく。
現実の生を硬く踏みしめた果ての、その向こう側にあるもう一つのリアルを希求し、遠い希望への予兆を暗示して終る。
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足立さんは、パレスチナに行った重信房子さんをリーダーとする日本赤軍に合流するために、1974年、日本を立った。
だから重信メイさんを赤ん坊の時から良く知っていて、ミルクを飲ませたり、おしめを取り替えたりしていた。いわば父親がわりのような人。
日本を忘れないために本を取り寄せて、紅葉(もみじ)の絵を見せながら、そこに小さなメイさんの手を置いて、「紅葉は赤く色が変わっていくように、メイの手もだんだん大きくなっていくんだよ」と、語りきかせたりしていたという。
トークの話も当然メイさんを中心とした話になる。
映画の中でのメイさんの描かれ方についても、ついつい辛口の批評になる。
「もっと深くメイの内面をえぐり出せ」と。
「ごもっとも」と、ぼくは反論なし。だってお父さんの前だ。下手(へた)なことが云える訳がない。黙って聞き入るばかり。
誰だって自分の娘が可愛いんだ。
で、突然に「ドラマやらないの。大浦さんがドラマやるとおもしろいよ」と云う。
待ってました。「実はこの映画の裏バージョンを撮影終了時から考えていて、戦争画を描いていたお父さん(島倉二千代)が失踪し、その娘(岡部真理恵)が父親を捜し回っている。
町で偶然メイさんに会う。実はメイさんは私立探偵。二人で失踪した父親を探す。針生さんは娘のおじいちゃん役で、爪(つめ)を切ったり、タバコを味わい深く吸っててもらう。捜しに捜してとうとう父親を見つける。その場所は、家から数分のところにある小屋だったというサスペンス・コメディ。
最も近いのに、永遠に辿り(たど)り着けない螺旋(らせん)する現実の時間と空間の物語」と、ぼくは説明する。
足立さん、「ああー、メイが私立探偵なんてダメだ。メイには探偵は無理だ」。
ウーン、処置なしだな。
でもこの物語は気に入ってくれていた。「ぼく、そういう話大好きだな、スパイラルしていく話」と。
トークが終って帰る時、「今度何かあったら、一緒に何かしようよ」と足立さんは云った。
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