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diary 大浦信行監督日記

2007年02月12日 19:46

監督ノート 百合花日記(ゆりいかにっき)

2月11日(日)快晴。
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郁ちゃんは、金曜日から泊まりがけで、大阪にいっている。社会科の教育研究会の合宿。
終日、金石範(キム・ソクポム)の「地底の太陽」を読む。
1948年の「済州島蜂起」、四・三事件を舞台に、壊滅した死の島、済州島と、そこから逃亡してきた26才の主人公、南承之(ナム・スンジ)の日本における物語。小説の形をとっているけれど、背後に描かれている歴史の記述は全くの事実だ。
済州島・蜂起勢力と島民への、政府軍、警察などによる虐殺。3万人近くの人々が殺されたという。村全体が壊滅したところも、一つや二つではない。
済州島蜂起から2年後の1950年、朝鮮戦争が起こり、朝鮮半島全体の壊滅へと向かう。だから四・三事件は、朝鮮戦争の前哨戦であり、縮図だったのだ。
金石範はかつて、金時鐘(キム・シジョン 詩人)との対話集「なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか」の中で、「私は韓国という国を認めることが出来ない。韓国という国名は、アメリカが躍起となって、当時アメリカに亡命していた李承晩(イ・スンマン)を担ぎ出して造った傀儡(かいらい)国家なのだ。私にとっての祖国は、朝鮮そのものなのだ」と語っていたのを思い出す。
「地底の太陽」に先立ち、その原型を成す金石範の「火山島」全七巻は、圧倒的な力業だ。ぼくは全巻を持っているけれど、いまだに読破しきれていない。
20年近くもの歳月をかけて書き上げられた「火山島」完結後も、彼は済州島の虐殺から決して目を背けず、「海の底から、地の底から」や「満月」などを通して、葬(ほうむ)られてしまった朝鮮民衆の歴史の闇を、執拗(しつよう)に暴き出していく。そのような精神の持続力に、ただただ驚嘆するばかりだ。
この「地底の太陽」は、「火山島」が終ったところから始まる、南承之の心の中の壊滅と、そこからなんとか自殺をせずに生き延びていく、日本に密航してきてから一年二ケ月における物語。
ぼくは、この主人公、南承之が金時鐘その人だと、いつも一人密かに思っている。
金時鐘も20才位の時、済州島から逃れてきた一人なのだ。決して多くは語らないけれど、「済州島虐殺」が金時鐘の中に残した深い傷跡は、沈黙を守り続けることによって、逆に昇華されていったのだと思う。「猪飼野詩集」や「新潟」という、長編詩の形を借りて。

金石範と金時鐘。この二人が抱え込んだ民族の苦しみと、その下に眠る「恨(ハン)」の心は、戦後日本の歴史を逆照射し、怠惰なぼくたちの意識を、撃つ。
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大浦信行

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