日本心中

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diary 大浦信行監督日記

2007年02月07日 18:29

監督ノート 百合花日記(ゆりいかにっき)

2月6日(火)快晴。

朝、ベランダに出て、ぼんやりとタバコを吸っていた。
多摩丘陵の上に、幾重もの高層マンションが建っているこの一帯は、今でもたくさんの生き物や、花や木々に覆われている。
春から夏にかけて鶯(うぐいす)が鳴く。夏には蛍(ほたる)が飛び交う一帯もある。がま蛙や蛇だっている。川では鴨が泳いでいる。時には狸も出るんだ。道路には、「動物注意」の標識もある。
野辺にたんぽぽが咲き乱れ、田んぼには蓮華(れんげ)も咲き誇る。
隣の町が“柿生”というだけあって、秋には農家の庭先に、柿がたわわに生(な)る。まるで童謡の世界だ。日本昔話の世界だ。
ぼくの住んでいるところは、こんな場所。
一服して、めだかが20匹程飼ってある、ベランダ脇の大きなかめにふっと目をやる。水面に黒く動くものがある。最初、田螺(たにし)が浮き上がっきてもがいているのかと思う。水面から取り上げて、手のひらに乗せてみる。細かく微かに手足を動かしている、小さな生き物。
ひっくり返してみると、なんとそれは天とう虫だった。真黒の地に、大きな赤い丸が左右に描かれた8ミリ程の天とう虫。普通は、冬の前に一回、死に絶える種類のものだと思う。まだ動いているので部屋の中に入れた。机の上にハンカチを敷いてその上にそっと置く。しばらく見ているうちに、名前を付けようと思いたつ。思わず、

“康太郎”
という名前が浮かんできた。いい名だと思う。
そのままにして、夕方部屋に戻って見ると、康太郎は、窓際の白いレースのカーテンに止まっていた。飛んだ。もしかしたら、生き延びることが出来るかもしれない。さっそく白い皿に、水と鰹節を揉(も)んで細かくしたものを添えて、彼をその上に置いてやった。鰹節の海の上にいる康太郎は、20分もすると、めきめき動き出した。寒さと食糧不足でまいっていたのだ。
今では前足をせわしなく動かして、頭なんか掻いている。
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大浦信行

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