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report 撮影報告 動画付
2006年11月18日 16:26
撮影の記憶より 辻智彦(撮影)
3.金芝河氏と針生一郎氏の対話
この対話はいつ、どこで行われたのだろうか、、、
現実的な日付と場所なら撮影日誌をめくればすぐにでも分ることだろうが、どうもその日付がこの対話の行われた時間と場所を、本当の意味で正確に指し示しているようには思えない。
金芝河という希代の幽閉者。針生一郎という痛魂の放浪者。この二者が、相まみえるに真にふさわしい時間と場所とはどこだろう。そこは恐らく、この現実界には存在し得ない、時空の隠れ家に違いない。
これは針生一郎氏との、二度目の渡韓だった。前回は2000年3月、大浦信行監督の前作「日本心中 針生一郎・日本を丸ごと抱え込んでしまった男」で、光州ビエンナーレに出席する針生さんを追って、撮影スタッフは韓国に渡ったのだった。
今回は、針生さんがあの抵抗詩人、金芝河氏に会いにいく。緊張感は否が応でも高まっていた。
初めて会う金芝河氏は、幾分調子が悪そうだった。無理もない。若い日の過酷な監獄暮らしと激しい拷問によって、全身ぼろぼろにされているのだ。のそのそと撮影現場に入ってきたかとおもうと、部屋の隅にすぐ座り込んでしまった。なんだか疲れているようだ。
韓国の建物は、なぜか床と窓の位置がいい。濃密な空気感がいつも室内に漂うのが見えるような光の入り方なのだ。オンドルになっていて床が微妙に高いせいだろうか。
金芝河氏がのそっと座り込んだ位置も、全く文句のない光に満たされていた。
よし、撮影はこのまま行ける。あらかじめ光が回りやすいように部屋中のドアを外しておいたため、机の位置を微調整するだけですぐに撮影を始められそうだった。
まずは大浦監督のインタビューから撮影は始まった。通訳の古川美佳さんは韓国文化や美術のエキスパート。金芝河氏の哲学的な語りを的確に訳してくれる。この映画に欠かせないスタッフだ。
はじめ、やや面倒くさそうに話していた金芝河氏だったが、話すうちにだんだん身を乗りだし、眼を輝かせはじめた。そして、インタビューが一区切りついた時、彼は微笑みながら大浦さんに語りかけた。
「私に、あなたのような深い質問をされた人は初めてです。私の真の理解者が日本にいました」と。大浦さんの金芝河氏に対する思いが、精神の深いところで共鳴し合ったのだろう。大浦さんも深くうなずいていた。
こちらを完全に信用してくれた金芝河氏は、今度いよいよ針生氏との対話の場を持つことになった。
暗い部屋、正対する2者。針生さんもやや緊張しているようだ。
今度はうってかわって、窓のない部屋での撮影。こちらの持ち込んだ照明機材のみでの光だ。人物が発光してこの部屋を照らしている、そういうごくシンプルなイメージを手がかりに、ライティングの準備を進めて行った。言うのは簡単だが、実現するのはなかなか難しい。以外と手間取り、逆に2人を待たせることになってしまった。
カメラは椹木さんの時と同じく一台。一台で対話を撮るときの独特の緊張感は、この映画のスタイルとも一致すると考えるようになってきていた。簡易移動車のレールを正対する2人に直角に敷く。2人と移動レールの関係がTの字になるような配置にして、撮影を開始した。そして僕は、撮影しながら、どことも知れない時空に迷い込んで行くように感じていた。移動車のレールにのって、ゆっくり滑って行くカメラが、まるで銀河鉄道のようだった。
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